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世を毒する言動、空疎な報道・社説・論説等に遠慮仮借なく鉄槌を下します。


by dokkyoan

ホッブス ~出来ることなら「重慶と延安」まで~

西洋政治哲学の根幹をなすのはホッブスが定義した自然状態、すなわち「万人の万人に対する闘い」で、これを言い換えますと「無政府状態」と言います。

この無政府状態ほど、統治機構が忌み嫌うものはないのですが、短い間隔を置いて二度に亘って広い範囲で無政府状態が比較的長期間続いた(続いている)にもかかわらず、ホッブスの定義する「自然状態」がいずれも発生しなかったのが、他ならぬ日本です。(政府の拙劣な対応に堪忍袋の緒が切れて暴動に発生する可能性はありますが)

日本と言う国は、西洋政治学の公理とも言うべき鉄則を否定する異色の国で、労働者が資本主義に対する闘争を粉砕した例すらあります。


JRがまだ分割民営化されず「国鉄」と名乗っていた頃、労働組合の一つ「動労(略称)」が遵法闘争と言う名の、大規模かつ組織的な業務遅延行為を定常的に実施し、お蔭で多数の乗客がすし詰め乗車やダイヤの乱れに苦しんでいました。

遂に堪忍袋の緒が切れた乗客が起した暴動が「上尾事件」であり「大宮事件」で、両事件とも広範囲に波及したにもかかわらず、怒りの標的になったのは乗務員等の国鉄関係者で、暴力を振るった側は無名かつ無数の老若男女、電車に乗っているから殆どは「プロレタリアート」です。

或いは万の単位で乗客が暴動を起し、大宮事件は38駅に波及したにもかかわらず、完全な無政府状態が相当時間に亘って現実のものとなったにもかかわらず、国鉄関係者はボコボコにされたかも知れませんが、沿線の住宅街が襲われた訳でもなく、女性が無差別に強姦された事例も報告されていません。


日本人は知っているのです、無政府状態になったら大人しくするのが、全員の利益を最大化(或いは「損失を最小化」)」することを。

そしてどうしても暴力に打って出なければならない場合は、「目的(粉砕対象)を限定して暴力行為に及ぶ」と言うことを。

上尾や大宮の事件の「首謀者=参加者全員」の要求は、「国鉄職員よ、ちゃんと働け、時間厳守は仕事の基本だろ」これだけでした。


以上から導き出される日本人の考えは、「特に勤労を阻害する行為は何人たりとも許されない」、「暴力はその目的が限定され、かつ正当性が認められた場合は正当化される(暴徒化した乗客は、盗みを働いた不届き者等を除き皆無)」と言うことで、今の民主党政権に対する目的限定的無法地帯の発生の可能性は、大いに有り得ます。


これが日本以外であれば、震災であろうが暴徒の発生であろうが民族対立であろうが「無政府状態=最悪の事態」が出現します。

しかもこの無政府状態、すぐ隣に存在し得る代物で、中国では帰省列車で拉致されるなんて、日常茶飯事と言っても問題ないでしょう。

拉致されるのは大抵女性、男性を拉致するには相応の計画を練るか、それよりまず相応の腕力が必要です。

拉致する理由は「学校の先生(=字の読み書きが出来る人物)がいないから」なんて理由が多く、或いは嫁取りも兼ねている場合もあり、なんだか切なくなってきます。

上尾や大宮駅で乗務員を半殺しにした乗客の誰もが、後続の予備軍を含めて激情に駆られつつも己を律していましたが、それは世界史でも有り得ない行動なのです。


日本で統計を取ろうが、中国で聞き取り調査をしようが、「延安と重慶のどちらに住みたいか」と言う質問(必ずどちらかを選ぶ)を出されたら、まず重慶が圧倒的勝利を収めると思われます。

四川盆地を後背地とし、交通の要衝でもある大都市重慶を、蒋介石は日中戦争で選択しました。(他に選択の余地がなかったのも事実ですが)

余談ですが、重慶と南京は可哀想な都市で、両者とも「国民政府の(臨時)首都と言う不名誉な地位に甘んじた」、南京はそのうえ「日本軍に屈しその支配下に入ったのみならず、汪兆銘政権の首都としての立場を担った」訳で、共産中国では何かと冷遇されています。

これらの都市で反日感情が強いのは、一種の「名誉回復運動」の一環で、これらの土地の人々も日本に買い物に出かけたら大人しく日本の習慣に従っている筈です。

ついでに言えば、列強が作った様な街、上海が厚遇どころでない扱いを受けているのは何故か、これを解明しないと共産主義中国の「原点」が見えてこないと愚考しています。


話を戻して、環境の良し悪しは必ずしも未来の良し悪しと直結しません。

重慶は結果的に「台湾の予行演習」の役割を担わされました。

日中戦争に敗れた蒋介石は、200万の兵力と共に台湾に籠もりました。

その後の台湾の歴史はご存知の通りですが、重慶はこれに「日本軍の絨毯爆撃」が加わりました。

日本軍が重慶を主敵としたのは、そう看做すだけの軍事力を備えていたからで、延安で「引き篭もり状態」にある共産党なんか、放っておけば消滅するとの点で、日本軍と蒋介石政府は見解が一致していた筈です。

(続く)
by dokkyoan | 2011-04-18 01:17